魔王は魔族の長である。
魔族社会における絶対の理は”強さ”。
人族は倫理を。
神族は真理を。
本来それぞれ領域を分け、不干渉を是としていたがこの千年ほどで状況は一変した。
魔族は境界を超えて人族の地を穢し始めた。
だが人族は神族の後ろ盾を経て、魔族に対抗。優勢だった魔族は一気にその勢いを失った。
直近20代内で最強と謳われた第32代魔王は、神具を授かった勇者率いるパーティーによって討たれた。
それが5年前。
長らく空位の続いた玉座がこの度、埋まった。
第33代魔王 空後のマリシトフーーー全身鎧に身を固めた、”人間”である。
ここは魔王城である。バレれば即死、とはならないが周囲は全て敵になるだろう。
さすがに私も四天王に囲まれればただでは済まない、、、片腕くらいは諦めよう。
そもそも捕虜として捕らえられた私が、先代が趣味としていた生物実験の被験体となったことが発端である。
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人間は魔力を有する。
人間は神力を有する。
魔族も神力を有する。
神族は魔力を有さない。
魔族の起源は、神域より堕ちた元・神族たちであったそうな。
それ故に魔族は今尚その身に微量ながら神力を有する。
逆に堕天したことのない神族は魔力を微塵も有さない。
人間は創造主でもある神族寄りではあるものの、かつて魔族との交わりもあったために神力、魔力の両方を微量ながら有する。
本来は”微量”ながら。
先代は人族を魔族側へ引き寄せようと考えていたようだ。
まったく別の種ではなく、近しい種に置き換えてしまおうという。恐ろしいことである。
先代魔王の魔力を植え付けられ、奇跡的に開花に成功してしまった唯一の事例。ーーー私だ。
先代の目指した魔族に近しい種、とまではいかなかったが、人族としては異常な存在にはなった私。
魔王として玉座に就いたからには隠し通さなくてはならない。
現代魔王は”人間”であるという事実を。
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第33代魔王
二つ名は「空後のマリシトフ」。全身鎧型魔具「魔王鎧」に身を包み人間であることを隠して過ごす。歴代屈指と云われた先代を凌ぐ強さ。魔力色は「黒」。性質は「培養」。
魔族
人間を捕虜にする目的は基本的に食料として。人族とのハーフ「半魔半人」は奴隷として隷属させられる。
神族
不干渉の前提に拘り、千年続く人族・魔族間の戦争に直接介入はしない。均衡を保つためだけに人族へ神具を授ける。人族とのハーフ「半神半人」は現代において存在しない。
人族
圧倒的な繁殖力とそれによる物量だけが売り。
術法
魔族が使うのは魔術、神族が使うのは奇跡、人族が使うのは魔法と神法。
術は感覚的で個々の能力で大きく結果が変動する。
法は体系化されていて手順通りやれば自ずと許容範囲内の結果に至る。
現代魔王は魔力性質「培養」を魔法で運用し、攻撃や防御には魔術を使用する。